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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(あ)141号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

弁護人木村一郎、同西岡光子の上告趣意について。

所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権をもって調査すると、公職選挙法一三九条に、何人も選挙運動に関し、いかなる名義をもってするを問わず、飲食物を提供することができないとあるのは、特定の公職の候補者の選挙運動に関して、同条所定の湯茶、菓子、弁当等を除く飲食物を提供することを禁止したものであって、本件のように、原審の確定した事実関係の下において、特定の公職の候補者の選挙運動に限ることなく、むしろ、殆んど大部分の候補者に対し提供する意思の下に、一律に二級清酒二升宛を提供したような所為までを予想して、これを取り締ろうとしたものではないと解するを相当とする。されば、爾余の点につき審査するまでもなく、原判決の認定した被告人の所為は、前記公職選挙法一三九条にいう選挙運動に関しなされたものとは認められず、罪とならないものであって、原判決には刑訴四一一条一号所定の事由があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって、同四一三条但書、三三六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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